映画

映画鑑賞記録|2023

2023年は301本の映画を観ました。そのうち映画館で観たのは211本、そのほかのメディアで90本。新作は130本、旧作は170本。住む土地が変わって、鑑賞のペースにも多少変化があるかなと思っていたところ、だいたい東京に住んでいたころと同じくらいの水準に落…

「L’art des charpentiers japonais」展関連映画上映

羽仁進監督『法隆寺』 © 記録映画保存センター パリ日本文化会館で開催中の展覧会「工匠たちの技と心――日本の伝統木造建築を探る」(2023/10/18 - 2024/1/24)にあわせ、日本映画を3作品上映します。「大工」「木造建築」というお題をもらって、わたしはその…

『交差する声』作品評(YIDFF公式ガイド「SPUTNIK」)

山形国際ドキュメンタリー映画祭公式ガイド「SPUTNIK」に、コンペティション部門に選出されたマリのドキュメンタリー『交差する声』についての作品評を書きました。アフリカがネオコロニアリズムから真に脱却するための農業協同組合の実践を記録した作品です…

フランスにおける「映画館のサブスク制度」(「Arthouse Press」)

コミュニティシネマセンターが運営する「Arthouse Press」に、フランスの映画館のサブスク制度についてのレポートを寄稿しました。月額20ユーロそこそこで、シネコンから名画座まで、パリのほとんどの映画館で映画が見放題になるという夢のような制度です。…

ヴァレンチン・ヴァシャノヴィチ『リフレクション』(’21)

五つ目のショットで現実と虚構のあいだに張られていたスクリーンが突如として破られる。車輌のフロントガラスはロシア兵の放つ銃弾によって破壊され、以後に続くいくつかのシーンでは、主人公は境界の向こう側で酸鼻たる現実の只中に勾留されてしまう。その…

スティーヴン・スピルバーグ『ウエスト・サイド・ストーリー』(2021)

マンハッタンのウエスト・サイドは再開発によっていまにも土地の記憶が葬られようとしている。ギャングの残党たちは毀れゆく廃墟となったシマを怯えながら歩きまわる。61年の映画版と較べてなによりもまず印象的だったのは、全体に通底するこの斜陽のイメー…

本棚(2021年4月)

2021年4月の本棚。今月はあまり読めなかった。積ん読はなし。 * * * 早稲田松竹でダミアン・マニヴェルの『イサドラの子供たち』の上映に駆けつけて、とめどなく溢れ出す涙でマスクを完全にだめにしてしまった。二年前のヤマガタではじめてこの作品を観たと…

FESPACO 2019/ワガドゥグ全アフリカ映画祭 コンペ作品予習

本日2月23日(土)、FESPACO 2019(第26回)が開幕した。FESPACO とは、ブルキナファソの首都ワガドゥグで隔年で開催されている映画祭 Festival Panafricain du Cinéma de Ouagadougou(ワガドゥグ全アフリカ映画祭)の通称であり、ブラック・アフリカにおい…

ピーター・チャン『最愛の子』―― 群像劇といううっとうしさの克服

気が向いたので書く。 ピーター・チャン監督の『最愛の子』(2014)を観た。2016年の年始にこの映画も劇場公開されていたようなのだが、わたしのアンテナでは中国映画が引っかかることはあまりなく、表題には見覚えがあるようなないような、というおぼろげな…

松岡茉優さん、あるいは単一か複数かの問い ―― 大九明子『勝手にふるえてろ』

快哉を叫びたくなるほどの傑作だ。いったいどれだけ生気に満ち満ちているだろう。この映画に流れる時間は、松岡茉優という女優のもつはちきれんばかりのエネルギーによって満たされている。オカリナ(片桐はいり)が玄関先でヨシカをひと目見てつぶやいた言…

『猿の惑星: 聖戦記』―― 猿という種による人間的想像力の拡張について

「猿の惑星」新三部作の最終章にあたるマット・リーヴス監督『猿の惑星: 聖戦記』を観た。ひさびさにスクリーンでシーザーに会えた歓びはひとしおだ。わたしは前二作を高く評価していて、とりわけ『新世紀』('14)についてはシリーズ最高傑作だと思っている…

ジム・ジャームッシュの後ろ姿を見つめるわたし

わたしは、偶然にもジム・ジャームッシュと直接ことばを交わす機会を得た。初期の作品たちはもちろんのことながら、『オンリー・ラヴァーズ・レフト・アライヴ』も傑作だし、なによりも『パターソン』は、とにもかくにも素晴らしかった。わたしは、そうした…

ジム・ジャームッシュ『リミッツ・オブ・コントロール』に登場する絵画群についての覚書き

ジム・ジャームッシュの『リミッツ・オブ・コントロール』を観た。唐突に挟まれる、皿の上に載せられた洋梨のカットがやけに記憶に残っている。 この映画で、わたしは二つのスペイン語のフレーズを憶えた。ひとつは仲間たちの合言葉になっている"Usted no ha…

FESPACO 2017/アフリカ映画、コンペティション部門の作品たち

FESPACO 2017(第25回)の長編フィクション部門の選出作品が発表された。FESPACO とは、ブルキナファソの首都ワガドゥグで二年に一度開催される映画祭 Festival Panafricain du Cinéma de Ouagadougou(ワガドゥグ全アフリカ映画祭)の通称であり、ブラック…

欲望の交差点、ひとを喰ったような映画 / ニコラス・W・レフン『ネオン・デーモン』

鑑賞する前に、どこかで「ひとを喰ったような映画だ」という評を目にした。カンヌの舞台では、歓声と怒号が同時に飛び交ったという。わたしはそれなりに身構えて鑑賞に臨んだ。そして劇場を出るとき、なるほど、まさに〈ひとを喰ったような映画〉にほかなら…

『天空からの招待状(看見台湾)』で寝落ちをするよい暮らし(という妄想)

わたしはこの数週間、台湾に執心している。インターネットの大海で「台湾」の文字が浮遊していないかとつねに目を光らせているし、友人たちと食事をするとなったら積極的に台湾料理店を選ぶようにしているし、侯孝賢や楊德昌といった台湾の監督たちのフィル…

MY FAVOURITE FILMS IN 2016

わたしたちが映画について語るときにしばしば発せらるる「今年は豊作であった」という謂に、何ら意味を見出せなくなってしまった。考えてみれば当たり前でもある。いまの時代において〈すべての映画〉という概念の質的な掌握は背理でしかなく、およそ恣意的…

ルシール・アザリロヴィック『エヴォリューション』―― 時代遅れの旧き想像力

ひどかったとしか言いようがない。確かに美しいシーンはあった。とりわけはじめの海中のシーンは息を呑むような美しさを湛えていた。神秘的な碧の海に、鮮やかな赤いパンツを履いた白い肌の少年が潜ってくる。そのような色彩の感覚はいい。美点をあげようと…

アメリカという眩い夢のつづき ―― リチャード・リンクレイター『エブリバディ・ウォンツ・サム!!』

『Boyhood(6才のボクが、大人になるまで。)』という傑作のあと、リチャード・リンクレイターが新たに世界に送り出したのは、本人の語るように前作の続編のようでもあり、またある意味では、まったく真逆の指向性のもとにつくられた(というように思われる…

ジェフ・ニコルズ『ショットガン・ストーリーズ』

先日鑑賞した『ミッドナイト・スペシャル』('16)が非常によかったので、ジェフ・ニコルズの過去作品を観はじめている。ことしのベルリン映画祭のコンペに出品された『ミッドナイト・スペシャル』の前にはすでに三作の監督作品があり、処女作である『Shotgu…

ミア・ハンセン=ラヴ『L'Avenir』

イザベル・ユペールの出演している作品は実のところあまり観ていなくて、いちばん記憶に残っているのはマイケル・チミノ『天国の門』('80)で奇跡的な美しさを放っていた彼女の姿である。あれから三十五年ほどのときを経て、いま63歳になった彼女は、もちろ…