ジム・ジャームッシュの後ろ姿を見つめるわたし

 わたしは、偶然にもジム・ジャームッシュと直接ことばを交わす機会を得た。初期の作品たちはもちろんのことながら、『オンリー・ラヴァーズ・レフト・アライヴ』も傑作だし、なによりも『パターソン』は、とにもかくにも素晴らしかった。わたしは、そうした彼の愛すべき作品にいかに感動したかということを本人に伝えるべく、『パターソン』の劇中で引用されていた、ウィリアム・カルロス・ウィリアムズのスモモの詩("This is Just to Say")をつたない英語の発音で諳んじてみせた。

I have eaten
the plums
that were in
the icebox

 

and which
you were probably
saving
for breakfast

 

Forgive me
they were delicious
so sweet
and so cold

  あなたの映画は、まさしくこの詩のもつ豊かさそのものである、などとそのままわたしは熱っぽく語る。ジャームッシュは、わたしの目をしかと覗きこんで、表情をつくらずに聞いている。わたしは敬愛する作家を前にして、だんだんと呂律が回らなくなってくる。わたしがことばに詰まった、その絶妙なタイミングで、ジャームッシュは不敵な笑みを浮かべ、 "Thank you"とひとことだけ言って、わたしのもとからゆっくりと立ち去っていった。わたしのもとから離れていくかれの後ろ姿は、有無をいわせぬ格好よさがあって、かれは彼の映画そのものではないか、とわたしは完全に打ちのめされてしまったのである。

 

 

 『パターソン』を観た夜、わたしはそんな夢を観た。『パターソン』は傑作でした。