MY FAVOURITE ALBUMS IN 2017

 はじめてベスト・アルバムなるものを選定してみたのだが、けっこうむずかしかった。とりあえずよく聞いていたということを支点に思いつくものを挙げていって、結果的に20枚のアルバムをリストアップしたものの、この数字にとくに意味はない。音楽を語るためのボキャブラリーは持ちあわせていないので、付随するコメントはきわめて私的な思い入れです。わたしはとくに耳の早いリスナーでも、コアなリスナーでもなく、聴き逃したものもたくさんあるはずなので、ほかのリスナーたちのベスト・リストを参考にして、聴き逃していた新しい音楽に出会うのがたのしみです。

 

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  1. Jamila Woods - HEAVN
     いまのわたしにとって、ほとんど完璧といっていいほどの音楽だ。わたしは こういうものを聴きたかったんだ、と。2016年には本国ではリリースされていたようだが、そのときは聴いていなかったので、ここで勘弁してください。#01の「Bubbles」からまずもって素晴しい。こういう音楽にもっと出合いたいのだが、そのためにはただシカゴのソウル・シーンだけに注視していれば十分なのかもしれない。来年、ベルリンにライブを観にいく予定です。

  2. スカート - 20/20
     朝も昼も夜も、日常のあらゆる情景にすっと入りこむ名盤。フジで披露していた新曲「さよなら!さよなら!」が頭から離れず、満を辞して新譜を手に入れてから、毎日のように聴いた。「私の好きな青」で「僕らが旅に出ない理由なんて/本当はただのひとつだってない」という詞に打ちのめされた。このフィーリングはまさにいまの感性だと思う。従来のスカートの楽曲よりもだいぶ前向きになっていて、これまでのディスクでいちばん好きです。

  3. Daniel Caesar - Freudian
     「Freudian(フロイト主義者)」という題がなによりも素晴らしく、ジャケットのアートワークも素晴らしく、もちろんのことながら、音楽も素晴らしい。涼しい夏の夜長にひとりで踊りたくなるような、すっと心が軽くなるどこまでも気持ちのいい音楽。フロイトはこれほど瀟洒な音楽は聴いていなかっただろうに。とくに#06の「We find love」 がいい。"We find love, we get up / And we fall down, we give up" という歌詞の主語が We であることのすばらしさ。

  4. Kendrick Lamar - DAMN.
     はじめはいくらか落胆した。これまでの三枚のアルバムと比して、サウンド的なおもしろさがない、と思った。とはいえ、いつの間にかタッチ・スクリーン上の指は『DAMN.』を目がけているし、脳内で"I got, I got, I got, I got"というかけ声が聞こえてくる。気づけばずぶずぶとハマっていた。歌詞を子細に読んでも、相変わらず文学としても一級品である。"Nobody’s praying for me"というアルバムを通して繰り返されるモチーフの切実さに実存のきらめきを感じてしまいます。

  5. Lucky Old Sun - La Belle Époque
     いわゆるトーキョーインディーのような音楽をめっきりと聴かなくなってしまい、よもや邦楽そのものすら若干離れつつあった2017年であったが、そんななかでも彼らの発見は大きかった。大阪にいる友人に教えてもらい、その友人の家でひたすらレコードを回しつづけてた。「さよならスカイライン」を聴くと、快がひたすらにハウリングしていくような突き抜けるような暑さの夏の日のことを思い出す。「横で立てる寝息が/はやらない歌をうたう彼に/これからを諭す」という詞があまりにも好き。

  6. Sampha - Process
     なんとロマンチックで壮大な音楽だろう。たまに「Blood on me」の "No need, no need to take from me" からサビにかけてのうっとりするようなメロが猛烈に聴きたくなる。透き通っていながらも、どこかで哀愁を漂わせているサンファの声の神秘さ。最後の最後の瞬間まで逡巡した挙句、フジで聴き逃したのが痛い。だって、Rhyeの新曲「Summer Days」もよかったんだもん。

  7. PUNPEE - Modern Times
     日本語の HIP-HOP シーンにあまりおもしろさを感じられなくなり、あまり聴かなくなってしまったのだが、まさに真打登場と思った。日本という地点においてヒップ・ホップ的なるものを咀嚼するためには、彼のようなアティチュードこそが相応わしいのではないか、と。自分のなかでは、ある種のインテリゲンチャの戯れという意味では、『マスター・オブ・ゼロ』とどこかでつながっている。

  8. Okada Takuro - ノスタルジア
     春の日差しのもと草木に囲まれたひらけた場所でかれの演奏を聴きながら、ああこんなに幸福でいてしまっていいんだろうか、とおもっている自分の姿が見えた。不思議と ―― 意図的にヴォーカルのヴォリュームを小さくしているのかもしれないが ―― 歌詞を意識したことはいちどもないのだが、おそらく歌われているものごともきっと肌にすっと沁み入るようなものなのだろう。
     
  9. millic - vida
     韓国のヒップホップ。日本のヒップホップ界隈とのレベルの差を見せつけられて愕然とした。まったくガラパゴス化していない。むしろ世界の最先端じゃん。そもそも、韓国語というのは、日本語よりもヒップホップというジャンルに適している。韓国語は日本語よりも圧倒的にライムが踏みやすく、モダンなビートにもスマートに乗っかってしまう。英語でうたっている曲も多いが(英語でラップが踏めるということに日韓の差を感じますね)、とくに #04の「Can't wait」が好き。(((O))) という名前の女性シンガーの透き通るような歌声にうっとりしています。
     
  10. Kamasi Washington - Harmony of Difference
     一聴して「あれだけ新譜愉しみにしていたのに、いまいちだな」と思った。「しかしカマシだし、もう一度聴いてみよう」と思って、もう一周した。「あれ」と思って、さらにもう一周した。聴いているうちにとてつもなく好きになってしまった。いまでは、#4の「Perspective」のはじめのひと吹きを聴くだけで悶絶する身体になってしまった。というか『Harmony of Difference』という標題、素敵すぎるのでは。

  11. Zack Villere - Little World
     1995年生まれのナードが送り出した至宝のポップ・ミュージック。ナードのくせにサンプリングのセンスがイケすぎてる! ナードのくせにインスタグラムの自撮りが多すぎる! ナードのくせに! ナードのくせに……愛。
     
  12. Arto Lindsay - Cuidado Madame
     
    "I love your hand writing of my name on your belly till you forget your name" という状況性はいまいち理解しかねるが、なんとも生々しい情景が所与されるような歌詞が、くすぐったくなるようなビートの上に乗っかっている。Chic, Elegant, Bizarre, そういう形容詞が矛盾なく該当するアート・リンゼイ。このアルバムをもって改めて、かれは唯一無二の存在だなと思い知った。

  13. Migos - Culture
      2017年にトラップ系の楽曲はたくさん聴いた気がするが、なんだかんだ言って、Migos がいちばんいい、というのが今年出た結論です。合いの手がたのしい。あの合いの手は絶対に中毒性があるんじゃないか。合法的な薬物である。喧嘩弱そうなのに強がっているというネットに流布している通説が好きすぎる。ほかのただの強そうなひとたちのトラップ・ラップはもう聴きません。

  14. 環ROY - なぎ
     アルバムのいたるところに意図的に用意されているように思われる余白がたまらない。それはサウンドだけでなく、日本語の使われかた/ことばの繋げかたということにも感じられる。そう思っていると #04「On & On」のような曲があったりして、そのコントラストにもおもしろい。とはいえ、「On & On」にも、どこか控えめな空気 ―― もっとエクストリームにできたはずなのに、その一歩手前で踏み止まっている様子があり、その感覚がアルバムの通底音として貫徹している、非常に完成度の高いアルバムだと思う。

  15. Thundercat - Drunk
     
    いたるところで2017年のベスト・アルバムのひとつに挙げられていて、確かに自分もこうして挙げているし、事実すばらしいアルバムだったと思うんだけど、全世界で諸手を挙げて絶賛されているのはなぜなのか。すぐれた批評をご存知のかたは教えてください。

  16. 唾奇 x Sweet William - Jasmine
     
    ヒップ・ホップ・ムーブメントの正当な嫡子のような装いでありながら、すごくヘンな――私生児的なバランスの上に成り立っているアルバムだと思う。ほとんど唾奇が新人だということが信じられないくらいに完成度が高い。

  17. 柴田聡子 - 愛の休日
     柴田聡子さんへの大いなる愛が日々着々と育っていっている気がするんですが、どうすればいいの?

  18. Sarah Elizabeth Charles - Free of Form

  19. Bonobo - Migration
     #2「Break Apart」での Rhye といい、#6「Surface」での Nicole Miglis(Hundred Waters)といい、ボーカルを迎えた曲の聴き心地がよすぎる。 モロッコ出身のアーティストを客演に迎えているという#7「Bambro Ganda」、ヤイヤイヤイしている#8「Kerala」など、あまりにダンサブルがすぎるビートの暴力に堪えることができない、フロアで聴きたい。フジロックの三日目にも残るべきであったと後悔が絶えない。

  20. Calvin Harris - Funk Wav Bounces Vol.1
     2017年、おなじみのアルバム。「アマイ!」はいろいろなところで聴いたな。個人的にもドライブにはもってこいの一枚で、よく聴いていました。こういう音楽が売れ筋に乗っている海外の音楽シーンと、日本のそれとの乖離をひしひしと感じます。 

 

 ところで、2017年の印象的なライブは、まずは渋谷WWWの NONAME のライブを挙げられる。60分に満たないアクトだったが、あれだけ幸福感の凝縮された時間はほかにない。"When the sun is falling down / and the dark is out to stay / I picture your smile / like it was yesterday" とフロアの全員で合唱したときの幸福といったら筆舌に尽くしがたい。記憶のなかでもとびきりのまぶしい輝きを放っている、一生大事にしたい記憶の断片である。

 ことしははじめて FUJI ROCK にいった。金曜日と土曜日の二日のみで、さっそく山の天気の洗礼を受けた(極寒で死にそうだった)。とはいえ、尋常じゃないくらいに愉しんでいた気がする。ベスト・アクトは、Aphex Twin か The XX かな。Aphex Twin のアクトが終わってしばらくは呆然として動けず、まともに喋ることすら能わない、頭を殴られたような衝撃だった。

 だが、とりたてて印象深いのは、Gallant のアクト(最高!『Ology』もたくさん聴いた)を観たあとに隣にいた友人の「どうして神さまはわたしたちに同じ声を授けてくれなかったんだろう」という呟きである。その神さまのいたずらによって、わたしたちは〈Harmony of Difference〉を愉しむことができているのだ。来年もたのむぜ、神さま。