高山俊は明らかに頭がいい

 11月も残すところ数日になって、ようやくプロ野球の2016年のMVPが発表された。パ・リーグは大谷、セ・リーグは新井である。セ・リーグのMVPは、カープのうちで選ばれる可能性があった選手は何人かいたが、かならずしも数字に現れないここぞというときの活躍、チームの精神的支柱という意味では、新井にMVPが授けられるのは順当といっていいだろう。

 大谷の受賞については、だれもが納得いく結果だろうと思う。投手と指名打者の両方から選ばれたベストナイン選定といい、まったく彼にとって大躍進の年だった(投手としての受賞については疑問が付されるという意見には同調しつつも、レギュラーシーズン終盤のピッチングについては、圧倒的であったことはとりわけ印象深い)。もちろん、こんなところで収まる器ではないのは重々承知である。数字でいえば今年は規定打席/イニングに到達しなかっただけに、来年はどちらも達成したうえで、投打のタイトル総なめしてくれるくらいの活躍を日本中のだれもが期待しているにちがいない。そして、満を持して海をわたって、文字通り「前人未到」を貫徹してほしい ••• というふうに、彼については期待が無尽蔵に湧き出てしまう。そういう期待を一身に受けてもなおそれを軽々と越えていくというところが、大谷翔平の規格外のすごさなのである。

 野球がぜんぜんわからないという友人から「大谷はどれくらいすごいのか」という質問を幾度か受けたことがあるのだが、いまだに適切な喩えが見つからなくて困惑している。「イチローとどっちがすごいの?」と訊かれるとどうしても答えに窮するのだけれど、全国の野球ファンの皆さんはどういうふうに説明しているのだろう。わたしはいつも「そもそも比較することが間違いだ」などとごにょごにょと誤魔化しているのだが。

 

 とまれ、同日には新人王も発表された。パ・リーグの新人王が茂木でなく高梨にいったのは少し残念だが、セ・リーグはといえば、大方の予想通り高山俊である。タイガースの選手の新人王受賞は、2001年の赤星以来だという。タイガースファンのわたしとしては、高山くんの活躍を見ているだけでも十分に楽しいシーズンだった。

 シーズン終盤、優勝争いはもとより、Aクラスも絶望的になったとき、北條や原口といったいわゆる「若虎」の活躍を追うことだけが観戦のモチベーションだったといっていい。とくに高山に至っては、坪井が記録した135安打というチーム新人最多安打を越すかどうか、かつて長嶋茂雄が樹立した新人としての猛打賞13回という記録を越すかどうかという新記録樹立が掛かっていた分、なおさら応援には力が入ったのである。残念ながら後者は12回で止まってしまったが(マルチ・ヒットを達成しても、猛打賞を記録するのは本当に難しいことなのだと身にしみてわかった)、136安打を記録し、新人としては申し分のない記録を打ち立てたことは間違いがない。新人王の結果も納得である。一年前のドラフト会議でよくぞ真中監督は外してくれたと感謝の気持ちは果てしない。金本監督もよくぞ引き当ててくれた。

 

 わたしが彼のことを気に入っているのは、卓越したミート力といった、技術の高さはもちろんのことながら、明らかに頭がいいということだ。ヒーローインタビューを見ていてもそうだし、普段の記者の受け答えを見ていてもそうなのだが、やはりいくらスポーツ選手とはいえ、知性の高さというのは、一流を目指すにおいては肝要なポイントであると思っている。もちろん、才能やセンスだけでもプロ野球選手にはなれる。そういう選手を追っていく楽しさもわかる。だが、わたしは野球IQの高さということがどうしても気になってしまうたちなのだ。

 清原と野村克也のつぎのようなエピソードが印象的だ。鳴り物入りでプロ野球に入団し、申し分のない成績を残していく清原だが、すでに指導者の立場にあった野村克也は、あるとき彼の限界に気づいてしまったという。「清原は天性だけでやっている、あいつには思想がない」、と。

 たとえば、イチローには知性があり、独自の思想がある。発言はもちろんのことながら、プレースタイルを見ていても、それは火を見るよりも明らかである。わたしは、高山にも似たようなものがあるような気がしているのだ。イチローほど活躍するとは買いかぶりすぎかもしれないが、あるいはそれくらいのポテンシャルは秘めているんじゃないか、と密かに期待を寄せている。

 シーズン中盤、不振が続いたことがあったが、終盤にかけてきっちりと修正して成績を残した。中途で苦しんでいたのは、ミート力が高すぎるがゆえに、どのコースの球でも振ってしまい、結果的にバットの芯を外して凡打となってしまうということだった。だが、そこからきちりと修正をして、終盤には球の見極めがうまくなっていたように思う。たんなる天性や運動神経だけでは、これほど早く修正はできないだろう。だれにとっても問題は明らかなのにもかかわらず、いつまでも同じ過ちを繰り返している選手なんて現に山ほどいるではないか。

 もちろん、プロとして一年目の選手に思想を問うのは酷だろう。だが、いずれは自らの論をきっちりと打ち立てることのできる選手だろうし、このままプロ野球で活躍し続ければ、引退後の解説者/評論家としての道も堅いだろうと踏んでいる。わたしは高山と同い年なこともあって、肩入れしすぎているのかもしれないが、同世代の活躍はいつだって刺激的である。強いて苦言を呈するならば、入場曲にEXILEは辞めてほしい。彼の音楽の趣味についてはあまり評価できなさそうなのだが、かといって音楽的嗜好と野球選手としての能力の因果関係を立証することもできなさそうなので、声を小さくして言っておく。せめてEXILEは辞めてくれ。

 

 ともあれ、まずは来季の活躍に期待しよう。守備や走塁という点では、まだまだ課題は山積みなので、オフシーズンのあいだにひとつひとつクリアしてもらいたい。修正能力にすぐれている高山のことであれば、きっとさらなる高みを来季は見せてくれるにちがいない。打撃についていえば、3割15本は越えてくれるだろうと期待している。来シーズンが待ち遠しい。