職場の同僚を何人か誘って、2021年1月からほぼ月に1回のペースで、現代日本文学の読書会を開催していた。あらかじめ一冊選書をして、読書会当日までに読了してくればよいというルールで、およそ二年にわたって続けることができた。わたしの身辺状況が変わったので、いったん仕切り直しということで、これまでの課題本を記録しておく。
第 1 回 宇佐見りん『推し、燃ゆ』(河出書房新社, 2020)
第 2 回 乗代雄介『旅する練習』(講談社, 2021)
第 3 回 滝口悠生『高架線』(講談社, 2017)
第 4 回 藤原無雨『水と礫』(河出書房新社, 2021)
第 5 回 李琴峰『ポラリスが降り注ぐ夜』(筑摩書房, 2020)
第 6 回 北条裕子『美しい顔』(講談社, 2018)
第 7 回 今村夏子『むらさきのスカートの女』(朝日新聞出版, 2019)
第 8 回 千葉雅也『オーバーヒート』(新潮社, 2021)
第 9 回 佐藤究『テスカトリポカ』(KADOKAWA, 2021)
第 10 回 石沢麻依『貝に続く場所にて』(講談社, 2021)
第 11 回 朝吹真理子『TIMELESS』(新潮社, 2018)
第 12 回 逢坂冬馬『同志少女よ、敵を撃て』(早川書房, 2021)
第 13 回 リービ英雄『天路』(講談社, 2021)
第 14 回 島口大樹『オン・ザ・プラネット』(講談社, 2022)
第 15 回 町屋良平『ほんのこども』(講談社, 2021)
第 16 回 金原ひとみ『ミーツ・ザ・ワールド』(集英社, 2022)
第 17 回 村井理子『家族』(亜紀書房, 2022)
第 18 回 年森瑛『N/A』(文藝春秋, 2022)
第 19 回 岡田利規『ブロッコリー・レボリューション』(新潮社, 2022)
第 20 回 綿矢りさ『嫌いなら呼ぶなよ』(河出書房新社, 2022)
第 21 回 万城目学 『あの子とQ』(新潮社, 2022)
第 22 回 多和田葉子『地球にちりばめられて』(講談社, 2018)
わたしが選書を担当していたが、なるべく新刊を選んでいくという方針を立てていた。見てのとおり話題作や受賞作ばかりが並んだ、相当のミーハー路線である。それでもずっと追いかけていこうと決めた作家に何人か出会うことができた。もともと現代の日本作家のことはほとんど知らなかったので、月に一冊は新しい作品と出会う機会をつくれたのはとてもいい経験だったと思う。書店に立ち寄るたびに日本文学コーナーも回るようになったし、以前よりも少しだけ文芸誌にも注意を払うようになった。
この22冊のなかで、わたしがもっとも気に入ったのは乗代雄介『旅する練習』。もともと「ミック・エイヴォリーのアンダーパンツ」というブログの存在は知っていたが、これがはじめて作品に接した機会となった。いまでも、あまりにあっさりとした悲痛な幕切れを思い返すたびに、胸のなかに情念が迫り上がってくるのを感じる。宇佐見りんというこれからのキャリアに期待しかない若き才能と出会えたのも自分にとって大きなことだった。
いっぽうでもっとも気に入らなかった作品は逢坂冬馬『同志少女よ、敵を撃て』。刊行直後に読書会で取り上げたのだが、あれよあれよという間にベストセラーに上り詰めていったのが記憶に新しい。言いたいことはいろいろあるのだが、読書会に参加していた同僚が「これは邪悪な小説だ」という表現でくさしていたのが印象に残っている。
二年も細々と読書会を続けていたら、多少なりとも「現代日本文学」の輪郭が浮かび上がってくるかなと期待していたが、正直にいって、まだぜんぜんよくわからない。当然のことながら文体やテーマは作家によってちがうし、読めば読むだけ「日本文学」とひと括りにすることの粗雑さを感じる。わたしが読んでいる小説は全体のほんの一部に過ぎないので尚更だ。
とはいえひとつ思うのは、いかに出版が斜陽産業であるとはいえ、いまだにこれだけ母国語で書かれた文学が読めることのありがたみだ。フランス語でも、ロシア語でも、韓国語でも、アラビア語でも同じぐらいの文学の裾野が広がっているのかもしれないが、それではビルマ語は、デンマーク語は、スワヒリ語はどうか。日本文学ばかりを読み続けるより、他言語の文学と較べるほうが、きっとその輪郭を掴むのにはいいのだろう。まさに比較文学研究というやつだ。海外文学読書会も毎月主宰していたのだが、そちらはいろいろあって30回で打ち止めになってしまった。またどうにか動かせるといいのだけれど、果たして。