日誌 | 20230729 - 0731

7 月 29 日 土曜日

 Ólafur Arnalds がアイスランド南部の大自然を舞台に演奏するYouTubeの映像に釘づけになる。この映像の撮られた Hafursey という土地には、1755年のカトラ火山大噴火で逃げ込んだ六人の男たちが残した文字が洞窟の壁にいまも残っているという説明が概要欄にある。太古の昔からの変わらない景観の土地に認められる、ほんのわずかな人間の生きた痕跡。世界にはまだそんな場所があるのかと、それだけで救われる気持だ。アイスランドを旅したいというのはささやかな夢のひとつ。

youtu.be

 

7 月 30 日 日曜日

 数日前にニジェールで軍事クーデタが勃発。フランスへの反発感情が高まり、民主政権を武力で追い出して政権を握るという一連の流れは、国境を接しているマリやブルキナファソの事例とよく似ている。いずれもワグネル社が治安維持で暗躍し、急速に親ロシアを傾いている国々だ。しかも国民たちの多くはこうしたクーデタを歓迎している。ロシアの国旗を掲げた若者たちが路上に火をつけ、フランス国旗を燃やし、フランス大使館を襲撃する。わたしはカフェのテレビで報道を眺めていたが、この日映っていたのもすでに隣国で繰り広げられた既視感のある映像ばかりだった。

 同じようにして去年10月にクーデタのあったブルキナファソでは、大統領の座についたイブラヒム・トラオレがいま市民たちのあいだでカリスマ的な人気を博しているようである。弱冠三十五歳、アフリカ最年少の大統領で、トマ・サンカラの再来との声も聞こえてくる。先日のサミットでもプーチンと握手を交わし、諸悪の根源は西欧にあるのだと力強く宣言したディスクールが話題を集めていた。若きトラオレ大統領のあの不敵な感じは、1970年代にウガンダで独裁と殺戮を繰り返したイディ・アミン大統領の肖像に重なる。わたしはちょうど先月シネマテークでアミン大統領をめぐるドキュメンタリーを観たばかり。ジャーナリストからいくらか突っ込んだ質問をされたときにいちど鼻で笑ってみせてから、口八丁でごまかそうとする姿はそっくりだ。

 友人のブルキナファソ人たちのフェイスブックを覗いてみても、みな熱狂的にトラオレ大統領を支持しているようである。心配になってワガドゥグの友人と電話。あの大統領についてはどう思ってる? ちょっと未来の独裁者という雰囲気もある気がするんだけど、と水を向けてみると、お前はいったい何をほざいてるんだ、どういう資格でそんな馬鹿なことをいえるのかと烈火のごとく怒られてしまった。おれはアフリカ人で、ロシアと運命をともにするんだ。トラオレ大統領はおれたちの希望なんだ。わたしに馴染のある世界史の裏側を垣間見て、わたしは言葉を失ってしまった。

 

7 月 31 日 月曜日

 つい最近、近所の映画館で観たばかりのフェリーニ8 1/2』の冒頭の三分間の映像がYouTubeに上がっていたので何度か観直す。あり得ないほどの画面の充実。もう何から何まで本当に完璧だ。はじめて『8 1/2』を観た大学生になりたての頃、わたしはいまほどの確信をもってこの映画を観れていなかったと思う。